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  • 一期一惠

(1)歯医者さんは怖いところ?/発達障害児の口腔ケア

今年の初め、「宮崎をホスピスにプロジェクト」の取材に来られた関係者から、この原稿の依頼の話が舞い込んだ。それもエッセイだそうで、友人との他愛もない手紙のやりとりや歯科の論文とは違う文章は、私の不得意とするところだ。しかし、「つたなくても良い、日常の臨床におけるおもいを書いて頂ければそれで良い、もしお断りされるのであればこの企画はなかった事に致します」と先方は言われ、恥ずかしながら重い腰を上げたわけである。

開業にあたっての想い

郷里の宮崎市に帰り、歯科医院を開業して早9年を迎える。私が歯科医院を開業する際におぼろげに考えていたのは、子どもや障害のある方が怖がらずに来院してくれて、予防中心の診療体系にし、できれば田園風景の中にあることだった。

というのも、私の故郷宮崎県は3歳児のむし歯罹患率が全国ワースト5位(開業当時の平成15年)つまり、むし歯をもっている子どもが多く、それが長じて、大人になっても口腔内環境が余りよろしくない状況が続くという事実があったからである。

これは、保健所に勤務していた頃からどうにかならないものかと考えていた。

加えて歯科医院は怖いところというイメージが世間にはあり、子どもや、ましてや障害のある子どもには歯科医院はできれば避けて通りたい所であるとよく言われる。そういうわけで、痛くなってから受診するのではなく、予防を中心にした診療体系にしたかった。

田んぼの中の喫茶店?

土地を探す目安は前述のごとく郊外で、かつ学校や保育園が近くにあることだった。
そして歯科医院の設計の段階で、限りなく歯科医院のイメージからかけ離れた建物(たとえば喫茶店とか絵本の家のような、入ってみたくなるような家)にしてほしいと建築士に要望を出した。

そんなわけで当医院は、看板がなければ喫茶店と間違われ、田んぼの真ん中にある。3月には早期米の田植え、7月は稲刈りなど四季折々の風景がみられ、時にはカエルが玄関に鎮座したり、蛇が姿を現しスタッフが大騒ぎしたことも。
このような環境により、当院は子供と高齢者の受診が多くみられる。

特に障害のある方や子どもが継続して受診してくれることで、私の考えを理解していただいているのかなと思う。

怖い思いを和らげるために

当院は恐怖心の強い患者さんが多いと思うが、歯科医院の何が嫌いなのか聞いたら、その切削音が苦手だという意見が多い。この切削音はダイヤモンドバーが1分間に20万回転することにより発生する音で、その際発生する熱を冷却するために水が噴出する、そのどれも嫌だと。この音が出ないようにする切削器具を発明すると、特許だけで左うちわで暮らせるそうだ。

このいやな音からくる緊張感を少しでも和らげようと、医院内では音楽を流している。午前中はクラシック、午後からはジャズかポピュラーであるが、私の好きなアーティストに反応してくれる患者さんがいると嬉しい。

周辺は稲田(クリニックが出来る前)

待合室の様子

また、歯科医院が遠のく二番目の理由は、子どもの頃、または成人してから歯医者さんで怖い思いをしたというのがその原因らしい。それで、私は歯医者さんが嫌いな甥(子どもの頃歯医者が馬乗りになって歯を抜かれた経験をもつ)から聞いたアメリカの小話を思い出した。

 

部屋には10歳の男の子と母親がいる。

母親「隣のジョンの母さんからどなりこまれたよ。また、いじめたんだね。まったくおまえは何回言っても分からないんだから。そんなにいじめたけりゃ歯医者におなり!」

男の子「・・・」

 

おかげで私は、大人になった甥に今もサドと言われている。
次回からは、発達障害児にとっても歯医者は怖くないと思ってもらえる方法についてお話する。

 

臨床作業療法 vol.9 No.4 2012