• 宮崎日日新聞

唾液はすぐれもの

「それってこれじゃあない?」と言いながら眉につばをつける仕草をしたことはありますか?ことわざで「眉唾物」は広辞苑によると、いかがわしいもの、真偽の疑わしいもの、とある。他にも「固唾をのむ」余り聞かないかもしれないが「年寄りのつばは糊になる」なんてのもある。誰しも2・3個はつばに関することわざを思い浮かべる事はできるだろう。この事は、つばがいかに生活に密着しているかの表れだと思う。

しかし、つばの大切さをあげよと言ったらどれ位あげられるであろうか。子どもの頃すり傷に親がつばをつけて「痛い痛いの飛んでけ!」というおまじないをしてもらった記憶がある人は多いと思う。これはつばに抗菌作用があるという考えに基づく行為であるが、この他にいくつかの重大な役割がある。

まず、一日の大人の唾液量だがおよそ1L~1.5Lで、この唾液は三大唾液腺、耳下腺、顎下腺、舌下腺から分泌されている。話す時や食事時唾液は大きな役割をしているが、日常的にはその重大さに気づかないまま過ごしている。たとえば、結婚式で祝辞の挨拶をする時、口が乾いてうまく話せなかった経験はないだろうか?これは唾液腺が交感神経と副交感神経の二重支配を受けている事の表れであるが、その他、粘膜の防御作用、浄化作用、消化作用、再石灰化作用、緩衝作用や発音、嚥下、味覚等への多くの作用がある。私たちの分野で問題なのは唾液分泌量が何らかの影響(加齢、薬剤、ストレス、唾液腺障害、自己免疫疾患等)を受け減少し、それによってむし歯の多発や歯周病の進行をもたらしたり、食べ物が飲み込みづらくなったりする事例だ。

また唾液量と共に重要な問題は唾液の緩衝能と質である。緩衝能の違いがむし歯への影響がある事は余り知られてない。 唾液のPHは中性に近いが砂糖の入った食物や飲み物を取ると酸が産生され口の中のPHは下がってくる。しかし唾液の緩衝能により20分程で自然に中性に戻る。これを「ステファンのカーブ」というが、この緩衝能には個人差がある。宮崎市内の歯科医師会所属歯科医院では希望の患者さんにはこの緩衝能の判定試験もしている。(ふしめ検診歯科ドックの葉書が来た人が対象)

この緩衝能が高い人はむし歯の発生率が低いといえる。私事で恐縮であるがあるが自分の歯磨きには余り熱心ではない、もちろん甘い物も大好きである。歯磨きはテキトーでも余りむし歯ができないのは、私の場合この緩衝能が高いおかげであると思っている。むし歯も歯周病も複数の原因が重なった時に発生するものだから、1つでもそのリスクを回避できれば良いという訳である。

「唾液は身体の潤いであり、変化して血となる。唾液は吐くな飲み込むべし」(貝原益軒の養生訓より)古くから、年老いても唾液が多いと健康であると言われている。唾液には成長ホルモンの一種のパロチンが含まれていて、唾液量が多いと消化液の分泌も多く身体が若い事を意味していると思う。

冒頭で述べた「眉唾」は、眉につばをつければ狐狸にだまされないという俗信に基づいていて、つばの御利益にあやかっているのだろうか。つばはこんなに大切なものだから「天に向かってつばをはく」ようなまねはしないでおこう。

 

宮崎日日新聞
2017年9月4日掲載