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  3. (2)治療より難しいのは行動のコントロール/発達障害児の口腔ケア
  • 一期一惠

(2)治療より難しいのは行動のコントロール/発達障害児の口腔ケア

歯科絞扼恐怖症とは

前月号で歯医者さんは怖いところ?の話をしたが、歯科絞扼(こうやく)恐怖症という病気があるのをご存じだろうか。これは歯科医院のチェアーに座っただけで心臓がどきどきしたり貧血になったり、吐き気が強くて治療ができないなど重度の歯科恐怖症の事である。

先日九州歯科大学の先生の話を聞く機会があったが、そのような患者さんは全国に人口の5%に認められる注1)(Hakeberg  M, et al.1992. Sweden)そうで、日本では単純に換算すると約500万人という事になる。そこの大学の外来ではこのような患者さんの内、成人の男性が約半数を占めるそうである。殆どが全身麻酔下での歯科治療の適応だとか。

私の医院にも30代半ばの男性でこれに近い患者さんがいる。ノーマルな成人でもそうなのだから、ましてや発達障害のある子どもにとっては崖に突き落とされるくらいの恐怖があっても不思議ではない。

診療の恐怖を減らす対応

発達障害の子どもの歯科治療で一番難しいのは治療そのものでなく行動調整であり、このような発達障害の子どもを恐怖の嵐から守る方法がある。まずは診療室に入ってもらうことであるが(診療室に入ることもできない子どももいる)、知的障害の有無や患者の能力で対応が異なる。大きく分けて行動変容療法と心理療法の応用があるが、前者には「tell show do」注2)「モデリング法」注3)「オペラント療法」注4)があり、後者には「TEACCH法」「遊技療法」等がある。当院ではこれらの方法を組み合わせて診療に適応させて行っている。

後者の心理療法は前者の行動変容療法が適応できない自閉症児に用いる場合が多い。「TEACCH法」を一言で説明するのは難しいが、かれらとの共存をめざすということだろうか。大事なことは、初めての事に見通しを立てるのが難しいという特性を知る、自尊心を大切にする、子どもの好きなものに目を向けるなどである。「50数えるまでがんばってね」、とか治療が終わる時間を前もって教えておく、視覚的な方が情報を受け入れやすいので時にはカードや道具を使用したりもする。自閉症やアスペルガー症候群などコミュニケーション障害の場合は本人の行動パターンを優先する事が多い。たとえば、こだわりがある場合は逆にそのこだわりを活用して治療の順番を決めたり、好きな文字や絵を使って気をまぎらわすなど。

それから、当院ではノーマルな子どもも含めてほぼ100%の子どもに笑気吸入鎮静法5)(写真1、以下笑気と記載)を適用している。これはなかなかうまくいく事が多い。笑気をしている時は不安や恐怖が和らぎ、終えると5分くらいで歩いて帰れるので便利である。この笑気を大人でも希望される患者さんが少なくない。一時期は、笑気を気にいられた恐怖心の強い患者さんが同じ思いの方を当院に紹介するので「こわがりつながり」ができていた事がある。しかし、それでも歯科治療に適応できない場合は全身麻酔下での治療となる。

写真1 笑気吸入鎮静法を行っているところ

待合室で診療!?

3年ほど前になろうか、重度の自閉症の20歳の男性が歯が痛いのだが他の歯科医院には入らなかったので困り、当院には父親が「焼き肉屋」だと言って連れて来られた事例がある。きょろきょろしながら玄関に入って来られ、院内を観察して音が聞こえる診療室をのぞき込み、診療室に入るのは拒否された。私は彼が入って来ないとわかったので、待合室にすわっている彼の所に行き「こんにちは!」と声をかけながら横にすわったら、いきなりほっぺにキスされた。ちょっと嬉しい気持ちになりながら、彼が拒絶するしぐさをしなかったので、すかさず待合室の畳に横になってもらい口をあけてもらった。親知らずからの痛みだとわかり、すぐに全身麻酔下で治療を行う福岡の歯科医院に紹介し無事抜歯をすることができた。

このような様々の方法により歯科治療中にこちらの指示にうまく従ってくれるようになれば万々歳である。しかしいつも思う事だが、そもそもむし歯を作らなければいいじゃん、と思うのは傲慢だろうか?
これには有効な対策法があるが、次回につづく・・・

写真2 待合室の西日を防ぐためのゴーヤカーテン

注1)Hakeberg ., et al. : Prevelence of dental anxiety in an adult population in a major urban area in Sweden. Common Dent Oral Epidemiol 12:97-101、1992.
2)tell show do:脱感作療法の一種で歯科治療に伴う刺激や不安を弱い物から強いものへと段階的に繰り返して不安や恐怖を最小限にする方法
3)モデリング法:歯科治療に適応できている兄弟の診療状況をみせること等で不安を少なくする方法
4)オペラント療法:ほめ言葉をかけたり不適応行動の抑制として無視する等の方法を組み合わせる方法
5)笑気吸入鎮静法:30%以下の笑気を酸素と共に持続的に吸入する事により、意識を喪失することなく、不快感や恐怖心を軽減する方法

 

 

 

臨床作業療法 vol.9 No.5 2012