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  • 宮崎日日新聞

口腔ケアで肺炎を防ぐ

老人と介護施設

人生の秋にさしかかり最近死亡記事の死因が気になるようになった。日本人の死因は1位が悪性新生物、2位が心疾患であるが、脳血管障害に代わって3位が肺炎となった事は耳新しい(2016年厚労省ホームページ)。中でも要介護高齢者の死因の1位は肺炎であり、その中でも誤嚥性肺炎の割合は年齢と共に高くなる。しかし、医療関係者以外でこの誤嚥性肺炎に口腔ケアが効果ある事を知っている人はまだ多くはないのではないか。静岡県の開業医の米山武義氏が書かれた「要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究」が2001年に出されてから、施設や病院で徐々に日常的に口腔ケアがされるようになってはきたが、まだまだ単なる歯磨きと思われている。実はやり方次第では口腔内細菌が減少して唾液中の細菌群が変化し肺炎の発症率も減少し、口の機能が向上し嚥下機能が改善して食べる事が可能になる事例がある。

この口腔ケアという言葉は要介護者に使われる事が多い、歯磨きよりもっと広い意味をもつ。歯磨きというと誰でも簡単にできると思われる傾向があるが、どっこい健康な大人でも”細菌を除去する”という見地からの正しい磨き方をしている人は少ない。いわんや幼児、障害のある人、要介護高齢者となると、ほとんど歯垢中の細菌は除去されていない場合が多い。では、どうすれば良いか?それは、誰かの手を借りることである。これは継続する事が必須要件であるので、家族、施設のスタッフ、看護師等からの”介助磨きの手”が必要でそれは専門的でなくても良いが、できたら歯科専門家の指導を受けての”仕上げの歯磨き”をする事である。そして、機能的な向上をめざす広い意味での口腔ケアが必要となってくる。

私はスタッフと共に2006年から5年間毎月、リハビリテーション病院の病棟の看護師さんに口腔ケア指導に行っていた事があるが、3年程経過した頃から入院患者さんの熱発が減少したとの報告を受けるようになった。これらの確証を得る為その後、「看護師への口腔ケア指導前後の要介護者の口腔内細菌の変化と使用した抗生剤量の年次変化」という論文を書いたが、対象となった患者さんの口腔内総細菌の減少がみられ、慢性期病棟で肺炎に処方される抗生剤の使用量が減少した。この場合は歯科専門職でない看護師等がする口腔ケアであるが成果が出る結果となった。診療室ではおめにかかれない寝たきりの患者さんも多く様々な事を学ばせてもらい、その時の経験は今でも宝物である。

誤嚥→誤嚥性肺炎というより高齢者は誰でも時には誤嚥するものであり、喀出力や免疫力や防衛体力等とのバランスが崩れた時に起こると考えた方がわかりやすい。そして、この肺炎は食物の誤嚥より不顕性誤嚥(汚染された唾液を就寝時に気づかない間に誤嚥する事)により引き起こされる率が高いのである。口腔ケア、低栄養の改善、リハビリテーションにより長臥をさせない事、これが誤嚥性肺炎を防ぐ最低限の方法ではないかと思う今日この頃である。

最後に・・・口は大事だよ!

※誤嚥(ごえん)(食物や唾液や胃液が誤って気管に入る事)

※誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)(誤嚥による肺炎)

※不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)

※喀出(かっしゅつ)

 

宮崎日日新聞
2017年1月30日掲載