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  • 宮崎日日新聞

口腔内細菌にびっくり

牛レバーが生食禁止になって久しい。この原因はO157等の細菌で、私が大好きな鶏肉の生食も食中毒の危険ありと言われているが、これもサルモネラ菌等の細菌が原因であり、見えないからよく分からない。むし歯・歯周病の原因の一つとなる細菌についても同様に見えないからよくわからないと言う患者さんが大概である。

当院では、数年前より口腔内細菌を位相差顕微鏡で患者さんに見せて動機づけに生かしている。顕微鏡というと子どもの頃にタマネギの切片に驚嘆した記憶があるだろうが、専門家以外はそれ以来見たことがないという人が案外多い。

この顕微鏡を作った人はオランダのレーウェンフック(1632生)で、300年前に肉眼で見ることのできない細菌が存在する事を明らかにした。彼は商人であり政治家でもあったが、レンズを作る事を趣味としていた。彼の作った顕微鏡は200~300倍で、信じがたい程素晴らしいできであったという。

彼はデンタルプラーク(歯垢)を観察し、その内容を英国科学雑誌に報告し、すでにプラーク細菌を桿菌、球菌、ラセン菌に分類していた。その素晴らしい科学的所見と洞察は彼の死後長い間凍結され研究される事はなかった。

その後仏のパスツール(19C)が細菌は生物から生物に感染して発生する事を実証し、これに基づいて独のコッホ(19C)が感染症を克服する業績をあげた。そして、米のミラー(19C)がむし歯は細菌によって起こることを化学細菌説として示した。

では、どのくらいの種類と数の細菌が口の中にいるかご存じであろうか?口腔内には500種類を超える細菌種が住み着き、歯垢1㎎に10個の細菌がいる。それは便中の細菌数とほぼ同じと言われている。常在菌もいてすべてが悪さをする菌ではないが、残念ながら目にみえない菌(0.5μm~100μm)1)であるが故にこの菌の怖さを知らない人がほとんどである。

中でも歯周病は細菌が静かに長い時間をかけて侵襲するので気付いた時には手遅れという事が多い。これが歯周病を糖尿病と共にsilent disease(静かに潜行する病気)と呼ぶ由縁である。歯周病を放置しておくと歯周病菌により歯槽骨が吸収され、ある日歯が自分の手で抜ける位ぐらぐらになって、40代から総入れ歯になる人もいる。40代以降歯を喪失する主な原因はこの歯周病であり、やっかいなのは総入れ歯になって初めて、その不便さに気付く事である。宮崎弁で「しもた~」である。

さらに脅かすようで恐縮だが、歯周病菌は万病の元であることも一般的には知られていない。動脈硬化症、病巣感染、早産、糖尿病などの誘因ともなる。このような歯周病菌を「キラー軍団」と呼ぶのは、こういういわれからである。

これから本格的な冬の到来を迎えてインフルエンザの感染が毎日のように報道されるであろうが、これらの病原菌は細菌よりもっと感染力の強いウイルスであり、人類はこれらの菌との戦いにこれからも翻弄されるのであろう。

注釈
1)1μm=1000分の1mm

 

宮崎日日新聞
2016年12月5日掲載