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  • 宮崎日日新聞

小太りばあさんがいい

こんなに暑いと食欲も減退する。ソーメンと焼きなすなどさっぱりしたものばかりになりがちである。でも、ちょっと待った、高齢者はそれではいけないんだと。随分昔のことだが、元経団連の会長で実業家であった土光敏夫さんを紹介する番組が放送されていた。30才以下の方はわからないだろうが、ちょっと年配の方なら彼を覚えているだろう。その人となりの紹介番組だったが、80才をこえても尚現役で、めざしとみそ汁の質素な食事は衝撃的であった。しかし、これは彼のすべてにおける慎ましい生活の一端で、低栄養という観点から最近は65才をこえた高齢者にはこの食生活は余りお勧めしないといわれる様になってきた。

私が嘱託医をしているホームホスピスの入居者の方々の中には、人工的水分栄養補給法である胃ろう、中心静脈栄養、経管栄養のまま入居される方が多い、しかし終末期と診断されても口腔ケアをして、食べる訓練、座位保持訓練等を行い廃用性障害を改善し、食物形態を工夫する事によって、食べられるようになり終末期を脱する症例があると前回の客論で述べた。そこで経口摂取へと移行可能となった症例と移行困難症例の成否の違いを検証してみると、経口摂取に移行できる為には様々な条件がある。移行可能となった場合の共通点は本人の食欲、家族の協力、多職種の共通認識による連携、本人に合った食形態・食事介助法、主治医の協力等があげられる。一方移行困難な理由として、進行性神経難病、脳幹障害、本人の食への無関心、頻回の誤嚥性肺炎、全身状態不良、施設・病院の協力が得にくい、過剰な危機管理等が考えられるが、食べられるようになるとやっぱり元気が良くなる。

さて話は最初に戻ろう。肉や脂を控えた粗食が健康に良いとされるのは、心臓病や脳卒中の原因となるメタボ予防の為だが、それが必要なのは40才から50才の中年期までの話であって、60才を越えてくると粗食は次第に健康にとって害が大きくなると人間総合科学大学の熊谷修教授は指摘する。肉や脂を控えた生活を続けるとタンパク質不足になって栄養状態が悪くなり(低栄養)、筋肉や骨の量が減っていく、つまりタンパク質不足は老化を早めることになると言う。身体の老化が進むと転倒して寝たきりになるリスクが高くなり、心臓病などの病気のリスクも高くなることが研究で分かってきた。

この高齢者の低栄養は入院患者で40%、在宅療養者の30%の人に現われ、医学的にも問題となってきた。そして低栄養になると死亡率も高くなるという。この低栄養を測る指標にアルブミン値やMNA-SF(簡単な栄養評価法)、ふくらはぎの周囲測定法等があり、日常的にわかりやすいのがBMI(肥満指数)である。体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値18.5未満がやせで25以上が肥満、男性では25~26.9、女性では23~24.9あたりがちょっと太めで最も死亡率が低いというデータも出ている。

ちなみにあの「ぎんさん4姉妹」はBMIが23~24で、ちょっと太めでお肉とおしゃべりが大好きである。高齢者は食が細くなるのは当然と考えられてきたが、寿命が伸びた現在元気に生活を楽しむには食事が大切。いい栄養補助食品も出ている、そうやって暑い夏を乗り切りたいものだ。

 

宮崎日日新聞
2017年7月31日掲載