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  3. (3)「明眸皓歯」のための予防/発達障害児の口腔ケア
  • 一期一惠

(3)「明眸皓歯」のための予防/発達障害児の口腔ケア

むし歯予防は自己コントロールから

9月の連休の一日は休日当番であった.休日当番の日は毎回顔の腫れた人が来院するので覚悟はしていたが、案の定当日来院した10数人の内の8割の患者さんが顔や顎が腫れていたいいたいと言って来た.ここまでひどくなるのは大概は怖いからぎりぎりまで我慢するか、命には別状がないと思ってむし歯を放置しているかである.それなら「むし歯を作らなけりゃいいじゃん」と思うのは毎度のことである.むし歯も歯周病も、糖尿病と同じ生活習慣病であるから、自己責任ですよ~というのは簡単であるが、そうは言ってもなかなか自己コントロールするのは難しいものである.

冒頭で述べた患者さんは大人であるが、子どもの場合は、小学校低学年まではむし歯ができるのは親の責任、と言いきっても間違いないと思っている.ダラダラとおやつを与えるのが一番の原因と思われるが、泣く子をだまらせる為にアメを与えたりしているのは論外であり、おやつは決まった時間に決まった場所で定量を食べている分には余り問題はない.だが、言葉で理想を言うのは簡単だが日常生活となるとこれが案外難しいのである.ましてや障害児においては親の負担は大きいが、そもそも親自身ですら予防の方法を知らないのだから仕方のないことかもしれない.

むし歯予防の3つの約束

診療室ではいつも、歯科ほど予防が効を奏する診療科はないと言っている.それは予防の方法が明確で確立されているからだ.そして3つのお願いとお約束をしてもらっている.①砂糖の入った食べ物や飲み物をだらだら食べない(シュガーコントロール)②20歳になるまでは乳歯も永久歯も歯質が弱いからフッ素の応用をする③歯科医院で習った正しい方法で歯磨きをする(小さい子どもや障害児は仕上げ磨きを親がする)さらに、唾液の量、性状、緩衝能力が関係してくるので、自分のリスクを知る事が重要であると説明している.要約すると原因は①甘い飲食物②質の弱い歯③細菌④これら3要素に時間の要因が加わる.

しかし、発達障害児の場合はむし歯の原因をシャットアウトしようにも困ることがある.
それは食べ物に対するこだわりがある場合である.自分専用の冷蔵庫にスポーツ飲料を買い置きして毎日飲んでいた中学生の男子がいたが、この子はむし歯が多く全身麻酔下での歯科治療となった.また、氷を一日中噛んでいないと落ち着かない男子、この子は次々と歯が欠けてきて痛みが生じるので、生活指導に苦労をした.

ところで、日本は世界の先進国の中でもむし歯大国である.ちなみにむし歯の指標となる12歳児DMFT(注1)で比較するとG8の中でロシア共和国、カナダ、についで日本は3番目に多い(WHOホームページより).どうして日本はむし歯が多いのだろう?

ここに国別の砂糖消費量とむし歯の関係のデータを示す(図1).むし歯は砂糖の消費量に比例をしていない.これは、不幸な事に、我が国ではフッ素を有効に利用する機会に恵まれなかった為に、むし歯予防先進国に比べて今だにむし歯に悩まされているといった現状であると考える.

図1 国別の砂糖消費量とむし歯の関係(監修:日本むし歯予防フッ素推進会議.フッ素の上手な使い方、口腔保健協会、29、2009)

フッ素洗口の効果

今から10年程前に新潟県の弥彦小学校と役場に見学に行った事がある.新潟県は40年程前は子どものむし歯の本数で日本一であったので、県全体で取り組みを始め、幼稚園・学校でフッ素洗口を行った結果、現在は当時の子ども達が親になり、その子ども達もむし歯が一番少ない県になった.

毎日むし歯であふれる診療室にいて、苦しむ子どもたちを見ていると歯磨きとシュガーコントロールだけでは間に合わない事が実感できる.特に発達障害児の場合は前回でも述べたように治療への適応が難しい上に、ノーマルな子どもに比してむし歯が多いとの報告もあるので、予防が最重要である.現在日本で行われているフッ素の応用は、フッ素入り歯磨剤を使う、フッ素液で洗口する、フッ素塗布を歯科医院でする等である.他の方法としてシーラント(注2)も予防効果が高いので発達障害児やむし歯リスクの高い子どもにはお勧めである.痛くなってから受診するのではなく、是非予防の目的で歯科医院を受診してほしいものである.

今年の夏ロンドンオリンピックで活躍したアスリート達が歯を大事にしている話は良く聞く.また、「歯に衣きせぬ」とか「歯をくいしばる」とか歯にまつわる故事成語は多いが私の好きな言葉は「明眸皓歯(めいぼうこうし)」である.歯を見せて微笑む人に不快感をいだく人はいないから.

注1)DMFT:decayed missing filled teeth(むし歯、抜歯、治療済みの歯のトータル数)
注2)シーラント:奥歯の小さな溝やくぼみの部分を削らずに歯科材料を填塞する事によって歯を守る方法

 

臨床作業療法vol.9 No.6 2013