- 宮崎日日新聞
予防目的で歯科に行こう
子供のむし歯は最近減少傾向にあるが,宮崎県民のうち「歯磨きをしている人はほぼ100%,でもむし歯を持っている人もほぼ100%」(1998年度県民健康・栄養調査)というデータがある.なぜだろう?それはむし歯・歯周病は歯磨きだけでは防げない上に,砂糖摂取量や時間,歯質の固さ,唾液の働き,口腔内細菌,抵抗力などが複雑に関係してくるからである.
この成因については様々な媒体で紹介されているので省かせて頂くとして,歯磨きはいつしますか?江戸時代は「朝起きた時」だったのをご存じだろうか.そもそも歴史を紐解くと,歯磨きの始まりは3~4世紀,中国敦煌の壁画に,指で歯を磨く揩歯(かいし)が描かれていたというから驚きである.日本には仏教の伝来と共に伝わって,当時は僧侶をはじめ公家,武士などが歯木(楊枝)で歯を磨いたり,舌の上を削る舌こきをしたりしていた.歯みがきが庶民に普及したのは,江戸時代の元禄の頃からである.ここに,神仏に詣でる時の口をゆすいで身を清める風習が合わさり,身を清めるみそぎの習慣として朝起きた時に歯磨きをしていたそうである.現代のように,食後に歯を磨く習慣は,実は明治になって西洋の歯科医学の知識が入ってきてからであるが,一般の人々にはなかなか普及しなかったという.夜間は唾液もほとんど出ないから,朝は磨かずともやはり夜寝る前の歯磨きを習慣にしてもらいたいものだ.
私は歯科ほど予防が効を奏する診療科はないと思っているのだが,冒頭で述べたように残念ながら診療室では毎日むし歯・歯周病との戦いである.その理由として,なるべくなら歯医者には行きたくない人が多いからではないか.
歯科医院の何が嫌いなのか聞いたら,その切削音が苦手だという意見が多い.この切削音はダイヤモンドバーが1分間に20万回転することにより発生する音で,その際発生する熱を冷却するために水が噴出する,そのどれも嫌だと.この音が出ないようにする切削器具を発明すると,特許だけで左うちわで暮らせるそうだ.このいやな音からくる緊張感を少しでも和らげようと,医院内では音楽を流している.午前中はクラシック,午後からはジャズかポピュラーであるが,私の好きなアーティストに反応してくれる患者さんがいると嬉しい.
また,歯科医院が遠のく二番目の理由は,子どもの頃,または成人してから歯医者さんで怖い思いをしたというのがその原因らしい.それで,私は歯医者さんが嫌いな甥(子どもの頃歯医者に馬乗りになられて歯を抜かれた経験をもつ)から聞いたアメリカの小話を思い出した.
部屋には10歳の男の子と母親がいる.
母親「隣のジョンの母さんからどなりこまれたよ.また,いじめたんだね.まったくおまえは何回言っても分からないんだから.そんなにいじめたけりゃ歯医者におなり!」
男の子「・・・」
おかげで私は,大人になった甥に今もサドと言われている.
むし歯・歯周病は糖尿病や高血圧等と同じく生活習慣病であるので,痛くなってから歯科医院を受診するのではなくぜひ予防の目的で歯科医院を受診して欲しいものである.そうは言ってもこの「生活習慣病」はなかなか減少しない.これを自己責任と押しつけるのではなく,「健康格差」と捉えその解決策を考える事が第一歩ではないだろうか.
宮崎日日新聞
2016年10月31日掲載