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  • 宮崎日日新聞

歯医者が家にやってくる

あと数年で2025年が到来する。これは「2025年問題」といって戦後生まれの団塊の世代が75才を迎える年だそうだ。その頃には高齢になって病気になってもベッド数が不足してすぐには病院には入れなくなり、もし入院できても急性期を過ぎたらすぐに自宅へもどるか施設に入るか選択を余儀なくされる時代がそこにきている。介護保険法が20年前に制定され、その頃より国は在宅医療・介護へとシフトしてきた。

開業して以来在宅訪問歯科診療をしているが、病院よりも在宅ではその人らしさが出ておだやかな顔になる場合が多いと感じている。しかし、在宅では社会的資源が必要なので多くの問題を含んでいる。現在在宅医療・介護に関する学会や研究会もますます盛んになってきている、喜ばしい事だ。在宅では医療よりも生活を支える事に重点がおかれる、そして医科よりも歯科はむしろそういった色合いが濃いと思う。

次のような症例を経験したので紹介しよう(家族の了解済)。脳腫瘍の末期の方が人工栄養(中心静脈栄養)のまま自宅に戻られ、口から食べたいという希望があり訪問診療で家に伺った。しかし、食べないからという理由であろうか、入院中から義歯が放置されていてそれを調整し、嚥下評価後食べる訓練を家族と共に行った所、3週間で静脈栄養は外された。さらに普通食(特別に硬い物を除く)を食べられる様になり、家族と温泉に出かけるまで生きる力を戻された。そして、この半年後進行したがんの為に亡くなられたが、その直前まで食べておられた。この様に「家」には不思議な力がある。もちろん家族の負担や費用を無視してはならない。

歯医者さんが家や施設に伺って歯の治療・義歯の作成等行う歯科医院は宮崎県では25%あり、加えて最近は口腔ケア・嚥下訓練・噛む力の向上等の食べる為の口腔機能向上訓練も行うようになってきた。2011年、日本人の死亡原因は脳卒中に代わって肺炎が第3位に浮上した。特に肺炎の中でも高齢になるほど誤嚥性肺炎の率が高くなる。この誤嚥性肺炎の予防に口腔ケアの効果は立証済であり、継続的に行う事が最重要である。また、さいごまで食べる為に他職種との連携を通じて姿勢の調整・食物形態・食事介助法等の指導を行う食支援も可能である。このように、家や施設に訪問してできる事は多くあり歯の治療だけではない。

超高齢社会の到来と共に我々も積極的に外に出て歯科サービスを行う事が求められ、これからは座して患者さんを待っていては時代に取り残されると思う。そして患者さんもさいごまでおいしく食べる為にはかかりつけ歯科医院を持ち、何らかの病気で歯科医院を受診できなくなった時はかかりつけ歯科医院に自宅か施設に来てもらうよう要請するのが一番早い。そうでなければ、最寄りの歯科医師会に相談する事になる。私は自医院に長く来て頂いている患者さんには「あのう、もし来院できなくなったら私がお宅まで行きますよ~、ただしその頃私が元気ならばね」と伝えている。

 

宮崎日日新聞
2017年11月20日掲載