ページが見つかりませんでした – ひとえ歯科クリニック https://hitoe-dc.com 予防を中心とした診療体系に加えて、障害のある方の治療を積極的に行うという理念のもと、スタッフと共に日々患者さんがしっかり噛めておいしい食事ができるようにサポートしております。当院では通常の診療とは別に、ご高齢の方は障害のある方など歯科医院へ行くことが困難な方に対して、ご自宅や施設に伺って治療する訪問診療にも対応しております。また、「極力痛みのない治療」にこだわり、笑気麻酔を利用した治療にも対応しております。過去の治療により痛みに対して恐怖心があるという方はお気軽にご相談ください。 Fri, 16 Feb 2018 19:06:05 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.8.9 (1)歯医者さんは怖いところ?/発達障害児の口腔ケア https://hitoe-dc.com/92/ https://hitoe-dc.com/92/#respond Thu, 15 Feb 2018 03:53:11 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=92 今年の初め、「宮崎をホスピスにプロジェクト」の取材に来られた関係者から、この原稿の依頼の話が舞い込んだ。それもエッセイだそうで、友人との他愛もない手紙のやりとりや歯科の論文とは違う文章は、私の不得意とするところだ。しかし、「つたなくても良い、日常の臨床におけるおもいを書いて頂ければそれで良い、もしお断りされるのであればこの企画はなかった事に致します」と先方は言われ、恥ずかしながら重い腰を上げたわけである。

開業にあたっての想い

郷里の宮崎市に帰り、歯科医院を開業して早9年を迎える。私が歯科医院を開業する際におぼろげに考えていたのは、子どもや障害のある方が怖がらずに来院してくれて、予防中心の診療体系にし、できれば田園風景の中にあることだった。

というのも、私の故郷宮崎県は3歳児のむし歯罹患率が全国ワースト5位(開業当時の平成15年)つまり、むし歯をもっている子どもが多く、それが長じて、大人になっても口腔内環境が余りよろしくない状況が続くという事実があったからである。

これは、保健所に勤務していた頃からどうにかならないものかと考えていた。

加えて歯科医院は怖いところというイメージが世間にはあり、子どもや、ましてや障害のある子どもには歯科医院はできれば避けて通りたい所であるとよく言われる。そういうわけで、痛くなってから受診するのではなく、予防を中心にした診療体系にしたかった。

田んぼの中の喫茶店?

土地を探す目安は前述のごとく郊外で、かつ学校や保育園が近くにあることだった。
そして歯科医院の設計の段階で、限りなく歯科医院のイメージからかけ離れた建物(たとえば喫茶店とか絵本の家のような、入ってみたくなるような家)にしてほしいと建築士に要望を出した。

そんなわけで当医院は、看板がなければ喫茶店と間違われ、田んぼの真ん中にある。3月には早期米の田植え、7月は稲刈りなど四季折々の風景がみられ、時にはカエルが玄関に鎮座したり、蛇が姿を現しスタッフが大騒ぎしたことも。
このような環境により、当院は子供と高齢者の受診が多くみられる。

特に障害のある方や子どもが継続して受診してくれることで、私の考えを理解していただいているのかなと思う。

怖い思いを和らげるために

当院は恐怖心の強い患者さんが多いと思うが、歯科医院の何が嫌いなのか聞いたら、その切削音が苦手だという意見が多い。この切削音はダイヤモンドバーが1分間に20万回転することにより発生する音で、その際発生する熱を冷却するために水が噴出する、そのどれも嫌だと。この音が出ないようにする切削器具を発明すると、特許だけで左うちわで暮らせるそうだ。

このいやな音からくる緊張感を少しでも和らげようと、医院内では音楽を流している。午前中はクラシック、午後からはジャズかポピュラーであるが、私の好きなアーティストに反応してくれる患者さんがいると嬉しい。

周辺は稲田(クリニックが出来る前)

待合室の様子

また、歯科医院が遠のく二番目の理由は、子どもの頃、または成人してから歯医者さんで怖い思いをしたというのがその原因らしい。それで、私は歯医者さんが嫌いな甥(子どもの頃歯医者が馬乗りになって歯を抜かれた経験をもつ)から聞いたアメリカの小話を思い出した。

 

部屋には10歳の男の子と母親がいる。

母親「隣のジョンの母さんからどなりこまれたよ。また、いじめたんだね。まったくおまえは何回言っても分からないんだから。そんなにいじめたけりゃ歯医者におなり!」

男の子「・・・」

 

おかげで私は、大人になった甥に今もサドと言われている。
次回からは、発達障害児にとっても歯医者は怖くないと思ってもらえる方法についてお話する。

 

臨床作業療法 vol.9 No.4 2012

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(2)治療より難しいのは行動のコントロール/発達障害児の口腔ケア https://hitoe-dc.com/100/ https://hitoe-dc.com/100/#respond Wed, 14 Feb 2018 04:29:31 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=100 歯科絞扼恐怖症とは

前月号で歯医者さんは怖いところ?の話をしたが、歯科絞扼(こうやく)恐怖症という病気があるのをご存じだろうか。これは歯科医院のチェアーに座っただけで心臓がどきどきしたり貧血になったり、吐き気が強くて治療ができないなど重度の歯科恐怖症の事である。

先日九州歯科大学の先生の話を聞く機会があったが、そのような患者さんは全国に人口の5%に認められる注1)(Hakeberg  M, et al.1992. Sweden)そうで、日本では単純に換算すると約500万人という事になる。そこの大学の外来ではこのような患者さんの内、成人の男性が約半数を占めるそうである。殆どが全身麻酔下での歯科治療の適応だとか。

私の医院にも30代半ばの男性でこれに近い患者さんがいる。ノーマルな成人でもそうなのだから、ましてや発達障害のある子どもにとっては崖に突き落とされるくらいの恐怖があっても不思議ではない。

診療の恐怖を減らす対応

発達障害の子どもの歯科治療で一番難しいのは治療そのものでなく行動調整であり、このような発達障害の子どもを恐怖の嵐から守る方法がある。まずは診療室に入ってもらうことであるが(診療室に入ることもできない子どももいる)、知的障害の有無や患者の能力で対応が異なる。大きく分けて行動変容療法と心理療法の応用があるが、前者には「tell show do」注2)「モデリング法」注3)「オペラント療法」注4)があり、後者には「TEACCH法」「遊技療法」等がある。当院ではこれらの方法を組み合わせて診療に適応させて行っている。

後者の心理療法は前者の行動変容療法が適応できない自閉症児に用いる場合が多い。「TEACCH法」を一言で説明するのは難しいが、かれらとの共存をめざすということだろうか。大事なことは、初めての事に見通しを立てるのが難しいという特性を知る、自尊心を大切にする、子どもの好きなものに目を向けるなどである。「50数えるまでがんばってね」、とか治療が終わる時間を前もって教えておく、視覚的な方が情報を受け入れやすいので時にはカードや道具を使用したりもする。自閉症やアスペルガー症候群などコミュニケーション障害の場合は本人の行動パターンを優先する事が多い。たとえば、こだわりがある場合は逆にそのこだわりを活用して治療の順番を決めたり、好きな文字や絵を使って気をまぎらわすなど。

それから、当院ではノーマルな子どもも含めてほぼ100%の子どもに笑気吸入鎮静法5)(写真1、以下笑気と記載)を適用している。これはなかなかうまくいく事が多い。笑気をしている時は不安や恐怖が和らぎ、終えると5分くらいで歩いて帰れるので便利である。この笑気を大人でも希望される患者さんが少なくない。一時期は、笑気を気にいられた恐怖心の強い患者さんが同じ思いの方を当院に紹介するので「こわがりつながり」ができていた事がある。しかし、それでも歯科治療に適応できない場合は全身麻酔下での治療となる。

写真1 笑気吸入鎮静法を行っているところ

待合室で診療!?

3年ほど前になろうか、重度の自閉症の20歳の男性が歯が痛いのだが他の歯科医院には入らなかったので困り、当院には父親が「焼き肉屋」だと言って連れて来られた事例がある。きょろきょろしながら玄関に入って来られ、院内を観察して音が聞こえる診療室をのぞき込み、診療室に入るのは拒否された。私は彼が入って来ないとわかったので、待合室にすわっている彼の所に行き「こんにちは!」と声をかけながら横にすわったら、いきなりほっぺにキスされた。ちょっと嬉しい気持ちになりながら、彼が拒絶するしぐさをしなかったので、すかさず待合室の畳に横になってもらい口をあけてもらった。親知らずからの痛みだとわかり、すぐに全身麻酔下で治療を行う福岡の歯科医院に紹介し無事抜歯をすることができた。

このような様々の方法により歯科治療中にこちらの指示にうまく従ってくれるようになれば万々歳である。しかしいつも思う事だが、そもそもむし歯を作らなければいいじゃん、と思うのは傲慢だろうか?
これには有効な対策法があるが、次回につづく・・・

写真2 待合室の西日を防ぐためのゴーヤカーテン

注1)Hakeberg ., et al. : Prevelence of dental anxiety in an adult population in a major urban area in Sweden. Common Dent Oral Epidemiol 12:97-101、1992.
2)tell show do:脱感作療法の一種で歯科治療に伴う刺激や不安を弱い物から強いものへと段階的に繰り返して不安や恐怖を最小限にする方法
3)モデリング法:歯科治療に適応できている兄弟の診療状況をみせること等で不安を少なくする方法
4)オペラント療法:ほめ言葉をかけたり不適応行動の抑制として無視する等の方法を組み合わせる方法
5)笑気吸入鎮静法:30%以下の笑気を酸素と共に持続的に吸入する事により、意識を喪失することなく、不快感や恐怖心を軽減する方法

 

 

 

臨床作業療法 vol.9 No.5 2012

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(3)「明眸皓歯」のための予防/発達障害児の口腔ケア https://hitoe-dc.com/110/ https://hitoe-dc.com/110/#respond Tue, 13 Feb 2018 06:43:30 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=110 むし歯予防は自己コントロールから

9月の連休の一日は休日当番であった.休日当番の日は毎回顔の腫れた人が来院するので覚悟はしていたが、案の定当日来院した10数人の内の8割の患者さんが顔や顎が腫れていたいいたいと言って来た.ここまでひどくなるのは大概は怖いからぎりぎりまで我慢するか、命には別状がないと思ってむし歯を放置しているかである.それなら「むし歯を作らなけりゃいいじゃん」と思うのは毎度のことである.むし歯も歯周病も、糖尿病と同じ生活習慣病であるから、自己責任ですよ~というのは簡単であるが、そうは言ってもなかなか自己コントロールするのは難しいものである.

冒頭で述べた患者さんは大人であるが、子どもの場合は、小学校低学年まではむし歯ができるのは親の責任、と言いきっても間違いないと思っている.ダラダラとおやつを与えるのが一番の原因と思われるが、泣く子をだまらせる為にアメを与えたりしているのは論外であり、おやつは決まった時間に決まった場所で定量を食べている分には余り問題はない.だが、言葉で理想を言うのは簡単だが日常生活となるとこれが案外難しいのである.ましてや障害児においては親の負担は大きいが、そもそも親自身ですら予防の方法を知らないのだから仕方のないことかもしれない.

むし歯予防の3つの約束

診療室ではいつも、歯科ほど予防が効を奏する診療科はないと言っている.それは予防の方法が明確で確立されているからだ.そして3つのお願いとお約束をしてもらっている.①砂糖の入った食べ物や飲み物をだらだら食べない(シュガーコントロール)②20歳になるまでは乳歯も永久歯も歯質が弱いからフッ素の応用をする③歯科医院で習った正しい方法で歯磨きをする(小さい子どもや障害児は仕上げ磨きを親がする)さらに、唾液の量、性状、緩衝能力が関係してくるので、自分のリスクを知る事が重要であると説明している.要約すると原因は①甘い飲食物②質の弱い歯③細菌④これら3要素に時間の要因が加わる.

しかし、発達障害児の場合はむし歯の原因をシャットアウトしようにも困ることがある.
それは食べ物に対するこだわりがある場合である.自分専用の冷蔵庫にスポーツ飲料を買い置きして毎日飲んでいた中学生の男子がいたが、この子はむし歯が多く全身麻酔下での歯科治療となった.また、氷を一日中噛んでいないと落ち着かない男子、この子は次々と歯が欠けてきて痛みが生じるので、生活指導に苦労をした.

ところで、日本は世界の先進国の中でもむし歯大国である.ちなみにむし歯の指標となる12歳児DMFT(注1)で比較するとG8の中でロシア共和国、カナダ、についで日本は3番目に多い(WHOホームページより).どうして日本はむし歯が多いのだろう?

ここに国別の砂糖消費量とむし歯の関係のデータを示す(図1).むし歯は砂糖の消費量に比例をしていない.これは、不幸な事に、我が国ではフッ素を有効に利用する機会に恵まれなかった為に、むし歯予防先進国に比べて今だにむし歯に悩まされているといった現状であると考える.

図1 国別の砂糖消費量とむし歯の関係(監修:日本むし歯予防フッ素推進会議.フッ素の上手な使い方、口腔保健協会、29、2009)

フッ素洗口の効果

今から10年程前に新潟県の弥彦小学校と役場に見学に行った事がある.新潟県は40年程前は子どものむし歯の本数で日本一であったので、県全体で取り組みを始め、幼稚園・学校でフッ素洗口を行った結果、現在は当時の子ども達が親になり、その子ども達もむし歯が一番少ない県になった.

毎日むし歯であふれる診療室にいて、苦しむ子どもたちを見ていると歯磨きとシュガーコントロールだけでは間に合わない事が実感できる.特に発達障害児の場合は前回でも述べたように治療への適応が難しい上に、ノーマルな子どもに比してむし歯が多いとの報告もあるので、予防が最重要である.現在日本で行われているフッ素の応用は、フッ素入り歯磨剤を使う、フッ素液で洗口する、フッ素塗布を歯科医院でする等である.他の方法としてシーラント(注2)も予防効果が高いので発達障害児やむし歯リスクの高い子どもにはお勧めである.痛くなってから受診するのではなく、是非予防の目的で歯科医院を受診してほしいものである.

今年の夏ロンドンオリンピックで活躍したアスリート達が歯を大事にしている話は良く聞く.また、「歯に衣きせぬ」とか「歯をくいしばる」とか歯にまつわる故事成語は多いが私の好きな言葉は「明眸皓歯(めいぼうこうし)」である.歯を見せて微笑む人に不快感をいだく人はいないから.

注1)DMFT:decayed missing filled teeth(むし歯、抜歯、治療済みの歯のトータル数)
注2)シーラント:奥歯の小さな溝やくぼみの部分を削らずに歯科材料を填塞する事によって歯を守る方法

 

臨床作業療法vol.9 No.6 2013

 

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(4)歯磨きは朝する?/発達障害児の口腔ケア https://hitoe-dc.com/116/ https://hitoe-dc.com/116/#respond Mon, 12 Feb 2018 06:55:20 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=116 歯磨きの歴史

地元ネタで恐縮であるが、宮崎県民のうち歯磨きをしている人はほぼ100%、でもむし歯を持っている人もほぼ100%(1998年度県民健康・栄養調査)というデータがある。これがなかなか改善しないのが私達の課題で・・・まあ、これまで何度か述べたように、そもそも歯磨きだけではむし歯は完全に防げないのであるが。

ところで、皆さん歯磨きはいつしますか?江戸時代は「朝起きた時」だったのをご存じですか?そもそも歴史を紐解くと、歯磨きの始まりは3~4世紀、中国敦煌の壁画に、指で歯を磨く揩歯(かいし)が描かれていたというから驚きである。日本には仏教の伝来と共に伝わって、当時は僧侶をはじめ公家、武士などが歯木(楊枝)で歯を磨いたり、舌の上を削る舌こきをしたりしていた。

歯みがきが庶民に普及したのは、江戸時代の元禄の頃からである。ここに、神仏に詣でる時の口をゆすいで身を清める風習が合わさり、身を清めるみそぎの習慣として朝起きた時に歯磨きをしていたそうである。現代のように、食後に歯を磨く習慣は、実は明治になって西洋の歯科医学の知識が入ってきてからであるが、一般の人々にはなかなか普及しなかったという。

正しい歯磨きは・・・

しかし、この「朝起きた時にする」というのは、結局それから一日の間、食物を口に入れ、そのまま寝るので就寝中に菌が繁殖し、むし歯の予防としての「朝の歯磨き」はしていないに等しい。わかりやすい事例として、うちの患者さんで「朝起きた時だけする」人はむし歯が多発している。朝食時に使用した皿を、洗わないでそのまま昼食時に使用する人がいるだろうか?それと似ている。ただ、口の中は唾液の抗菌作用があるから食器とは少し条件が異なるが。

この「歯磨きは食後に」を習慣性にする、「正しい歯磨き方」を理解して実践してもらうには一般の人でも難しいが、ましてや発達障害の子どもにわかりやすく説明するには、苦労する事が多い。彼らは一般的には口腔ケアの意義が理解できないため自発的に歯磨きを行おうとしない事が多く、同じ場所を繰り返し磨いて歯ぐきを傷つけたりして満足のいく歯磨き効果が得られないことが多い。

自閉症のTくん

Tくんは元気のいい4歳の男の子。歯科の治療台にすわっても寝ないで質問責めをし、私たちの話を聞くことはない。「ほかの子どもと遊ばない、普通の子どもとどこか違うな」と母親は感じていたが、発達障害があるとは認識していなかった。そこで来院した当初はtell show doという一般的な方法で対処していたが、自閉症と診断されてからは別の方法で歯科治療に適応してもらった。

少し話が本題からずれるが、こういう時難しいのは歯科医が初診時に普通の子どもとは少し違うなという感触をもっても、安易に何かあるのでは?という事を保護者には告知しづらいという現実である。何回か来院が続いてから適応が難しいことを告げ保護者に治療風景をみてもらい、訓練が必要な事を伝える。もしここで保護者に思い当たるふしがあるなら専門家に相談をしてはどうかと提案する事もある。

この事例はしばらくして自閉症(グレーゾーン)でしたと母親から伝えられ、絵カードと写真を用いて説明をする事にした。彼は①歯科治療への恐怖心がある②初めての事に見通しをたてるのが難しいという特性をもっている→これをどうすればクリアーできるだろうか?③彼らは目からの情報処理が得意である→写真で流れを理解できないか?こう考えて、歯科に用いる器材と道具の写真をとり順番に並べ、その用途を説明したカードを用いて、歯磨きの手順を理解してもらうコミュニケーションツールとして使った。

具体的にどこから磨きどこで終わるのかを絵カードで示し、うまくできたらいつもほめた。本人の歯磨きでは不充分な点を補うために保護者に仕上げ磨きの方法を教え実行してもらう事にした。このようにして経験を重ねていくうちに、本人の本来の成長も手伝って適応ができるようになった。

江戸時代の浮世絵に歯木を用い歯磨きをしている七代目市川團十郎の姿 注1)がある。絵の後方の時計?には辰の刻午前8時頃と記されている。これもまた「朝磨き」だ。一日に1回しか磨かないのであれば、夜寝る前の丁寧な歯磨きをお勧めする。

一日の終わりにテレビや新聞を読みながらリビングでゆっくりと。しかも「歯磨き粉を最初からつけないでね」と患者さんにはいつも言っている。「水磨きの方がよく取れるし、歯磨き粉は補助的に最後に少量塗布するように使えばいいんです、その方がむし歯はできませんよ」と。

注1)大野粛英、羽坂勇司:目で見る「日本と西洋の歯に関する歴史」第2版.p53、2011、わかば出版

 

臨床作業療法 vol.10 No.1 2013

 

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(5)唾液はすぐれもの/発達障害児の口腔ケア https://hitoe-dc.com/130/ https://hitoe-dc.com/130/#respond Sun, 11 Feb 2018 07:47:01 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=130 私たちに身近な”つば”

「それって、これじゃあない?」と言いながら眉につばをつける仕草をしたことはおありでしょうか?ことわざで「眉唾物」、これは広辞苑によると、いかがわしいもの、真偽の疑わしいもの、とある.このようにつばに関係することわざは以外に多い.他にも「固唾(かたず)をのむ」、余り聞かないかもしれないが「年寄りのつばは糊になる」なんてのもある.聞かれたら誰しも2・3個はつばに関することわざを思い浮かべることはできるだろう.この事は、つばがいかに生活に密着しているかの表れだと思う.

でも、つばの大切さをあげよと言ったらどれ位あげられるであろうか.子どもの頃かすり傷に母親がつばをつけて「痛い痛いの飛んでけ!」というおまじないをしてもらった記憶がある人は多いと思う.これはつばに抗菌作用があるという考えに基づく行為であるが、このような作用以外にいくつかの重大な役割がある.

まず、一日の大人の唾液量だがおよそ牛乳パック1L分に匹敵すると言われている.この唾液は三大唾液腺、耳下腺、顎下腺、舌下腺から分泌されている.しゃべっている時や食事の時、唾液は大きな役割をしているが、日常的にはその重要さに気づかないまま過ごしている.たとえば、結婚式で祝辞の挨拶をする事になっている時、のどが乾いてよくしゃべられなかった経験はないだろうか?これは唾液腺が交感神経と副交感神経の二重支配をうけていることの表れであるが、このように機能として粘膜の防御作用、発音、嚥下、その他に緩衝能、浄化作用、消化作用、味覚等多くの作用がある.

唾液とむし歯の関連性

最近ドライアイと並んでドライマウスがテレビで話題になっていたが、私たちの分野で問題なのは唾液分泌が何らかの影響を受け減少し、そのことによるむし歯の多発や歯周病の進行をもたらす事例だ.

3年ぶりに受診した27歳男性、むし歯が多発していた.原因は何か?うつ病でここ3年間、数種類の抗うつ薬を飲んでいるとの事.口角炎、口唇炎なども併発しているので、唾液分泌量を測定したら非常に少ない量であった.明らかに薬の副作用による口渇である.(図1)多発したむし歯は唾液の減少により自浄作用がおち口腔内細菌が増加した為、または唾液のPHが低下した事によるものと思われる.この事例は抗うつ薬の調整を主治医に相談をするように促した.

この他にも口腔乾燥症には降圧剤、抗ヒスタミン剤、抗不安薬、抗がん剤等多くの種類の薬が関与している.この場合は、神経伝達の遮断によるものだが、他の事例では原因として発熱・下痢などの脱水、特殊だが放射腺療法・自己免疫疾患による唾液腺障害などによる口腔乾燥症も経験したことがある.口腔乾燥症が過度に進行すると、口腔粘膜の痛みでご飯が食べられなくなったり、飲み込みがスムーズにできなくなりご飯を食べるのに時間がかかると言う事例もある.

発達障害児の場合の口腔乾燥症は経験していないが、薬を幼少時から服用している事例もあるので、経過をおっていく必要がある.

また唾液量と共に問題になるのは唾液の緩衝能力と唾液の質である.緩衝能の違いでむし歯のリスクが高くなることは余り知られてない.

唾液のPHは中性に近いが砂糖の入った食物や飲み物を取ると酸が産生され口の中のPHは下がってくる.しかし唾液の緩衝能力により20分ほどで自然に元の中性に戻る.歯科用語ではこれを「ステファンのカーブ」というが、この緩衝能には個人差がある.

当医院では必要な患者さんにはこの緩衝能の判定試験もしている。(図2)

緩衝能が高い人は砂糖を取った後余り歯磨きしなくてもむし歯は発生しない確率が高いといえる、私事で恐縮であるがあるが、白状すると余り歯磨きには熱心ではない.患者さんには歯磨きはきちんと正しく行いましょうと言っているのに、1日に1回就寝前に水磨きするだけだ.もちろん甘い物も大好きである.歯磨きはテキトーでも余りむし歯ができないのは私の場合、この緩衝能が高いおかげであると思っている.むし歯も歯周病も複数の原因が重なった時に発生するものだから、1つでもそのリスクを回避できれば良いという訳である.

唾液は健康のバロメーター

貝原益軒の養生訓に以下の文章がある.「唾液は身体の潤いであり、変化して血となる.唾液は吐くな飲み込むべし」古くから年老いても唾液が多いと健康であると言われる.唾液には成長ホルモンの一種のパロチンが含まれている.また、唾液量が多い事は消化液の分泌も多く、身体が若いことを意味していると思う.

冒頭で述べた「眉唾」は、眉につばをつければ狐狸にだまされないという俗信に基づいているそうで、つばの御利益にあやかっているのだろうか。つばはこんなに大切なものだから「天に向かってつばをはく」ようなまねはしないでおこう.

 

参考文献

1)河野正司監修:唾液―歯と口腔の健康、2004、医歯薬出版

 

 

臨床作業療法 vol.10 No.2 2013

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(6)細菌にびっくり/発達障害児の口腔ケア https://hitoe-dc.com/143/ https://hitoe-dc.com/143/#respond Tue, 06 Feb 2018 08:05:52 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=143 顕微鏡の話

そろそろこのコラムも今回でおしまいである。1回目からむし歯・歯周病の原因はさまざまあり、それに対する予防法について書いてきたが、中でも、その原因となる細菌については見えないからよくわからないと言う患者さんが大概である。

当院では、数年前よりその細菌を位相差顕微鏡で患者さんに見せて動機づけに生かしている。顕微鏡というと子どもの時にタマネギの切片や氷の結晶などに驚嘆した記憶があるだろうが、専門家以外はそれ以来見たことがないという人が案外多い。

この顕微鏡を作った人はオランダのAntony van Leeuwenhoek(1632~1723)で、300年前に肉眼で見ることのできない細菌が存在することを明らかにした。彼は、商人であり政治家でもあったが、レンズを作る事を趣味としていた。手製の精巧なレンズを金属製のホルダーにはめ込み、顕微鏡を作っていた。彼の作った顕微鏡は200~300倍で、信じがたいほど素晴らしいできであったという。

彼はデンタルプラーク(歯垢)を観察し、その内容を[Royal Society of London]に報告した。すでにプラーク細菌を桿菌、球菌、ラセン菌に分類していた。その素晴らしい科学的所見と洞察は彼の死後長い間凍結され研究されることはなかった。

その後フランスのパスツール(1822~1895)が細菌は自然発生するものではなく、生物から生物に感染して発生することを実証し、これに基づいて独のコッホ(1843~1910)が感染症を克服する業績をあげた。そして、アメリカのミラー(1853~1907)がむし歯は細菌によって起こることを化学細菌説として示した。

口の中の細菌

では、どのくらいの種類と数の細菌が口の中にいるかご存じであろうか?口腔内には500種類を超える細菌種が住み着き、デンタルプラーク1㎎に10個の細菌がいる。変な話、便中の細菌数とほぼ同じと言われている。常在菌もいて、すべてが悪さをする菌ではないが、残念ながら目にみえない菌(0。5μm~100μm)1)であるが故にこの菌の怖さを知らない人が多い。

そこで、当医院では4年前に位相差顕微鏡を取り入れ、受診するすべての大人に検査を実施するようにした。その結果いろんな事が分かるようになった。それは、歯周病の治療後には細菌数が減少する事、親子で細菌叢が似ていること、細菌数が多い人は感染を起こしやすいこと、寝たきりの高齢者の口腔ケアを継続すると細菌叢が変化すること、等々である。

今後は細菌数が多い人が少ない人に比較して10年後20年後にどのように変化するか?これが興味をそそられるところであるが、どっこいその頃まで私がこの仕事を続けていないと思われるので、この‘はてな’は解決されないままになるかもしれない。

恐い歯周病菌

さて、中でも歯周病菌の話をすると、歯周病菌は静かに長い時間をかけて侵襲するので気付いたときには手遅れなどという事が多い。この事が歯周病を糖尿病と共にsilent disease(静かに潜行する病気)と呼ぶ由縁である。歯周病を放置しておくと歯周病菌により歯槽骨が吸収され、ある日、歯が自分の手で抜けるくらい「ぐらぐら」になってしまう。それで40代から総入れ歯になる人もいる。40代以降、歯を喪失する主な原因はこの歯周病であり、やっかいなのは総入れ歯になって初めて、その不便さに気付く事である。宮崎弁では「しもた~」2等と言う。普通は40代以降にこれらの症状が出てくるが、発達障害児の、中でも特にダウン症の人は20代からこの歯周病におかされ、歯を若いうちに失ってしまう事が多いと、学会でも報告されている。

便利な顕微鏡

ダウン症の20代の男性Bさんはちょっと無口な恥ずかしがりやさん。彼の口腔内細菌を調べたところ歯周病菌であるスピロヘータが特に多く、本人と保護者に顕微鏡像を見てもらったが、その数の多さと動きの速さ(顕微鏡の利点はその動きも観察できる)に驚いていた。この患者さんは知的障害もある為に、自分ではきちんと磨けないので保護者に仕上げ磨きの方法を教えた。そして歯周病の治療をした後歯周病菌が減少した事を顕微鏡像で確認できた。しかし、ちょっと安心したのもつかの間、3ヶ月後の検診では少し後戻りしていた。

このように治療の効果が目で確認できるので顕微鏡は培養などと比較して診療室で手軽に検査できるツールとして便利である。この患者さんは、その後定期検診の重要さを伝え、現在経過観察中である。

「キラー軍団」とのバトルは続く

さらに、脅かすようで恐縮だが、歯周病菌は歯を喪失させるだけでなく万病の元であることも一般的には知られていない。動脈硬化症、病巣感染、早産、糖尿病などの誘因ともなる。特殊な例としてダウン症の中でも先天性心疾患を持っている人は抜歯や歯周病の治療後に口腔内細菌による感染性心内膜炎を起こす恐れがある為に、抗生剤の術前投与をすることもある。

このような歯周病菌を「キラー軍団」と呼ぶのは、こういう謂われからである。私たちは毎日この軍団とのバトルを繰り返しているが、中々紛争は収まらないのが悩みである。

今、風疹、鳥インフルエンザの感染が毎日のように報道されているが、これらの病原菌は細菌よりもっと感染力の強いウイルスであり、人類はこれらの菌との戦いにこれからも翻弄されるのであろう。

 

注釈

1)1μm=1000分の1mm

2)後悔先にたたずという意味

参考文献

1)奥田克爾:デンタルバイオフィルム、医歯薬出版、2010

 

臨床作業療法 vol.10  No.3 2013

 

 

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予防目的で歯科に行こう https://hitoe-dc.com/53/ https://hitoe-dc.com/53/#respond Tue, 30 Jan 2018 02:25:25 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=53 子供のむし歯は最近減少傾向にあるが,宮崎県民のうち「歯磨きをしている人はほぼ100%,でもむし歯を持っている人もほぼ100%」(1998年度県民健康・栄養調査)というデータがある.なぜだろう?それはむし歯・歯周病は歯磨きだけでは防げない上に,砂糖摂取量や時間,歯質の固さ,唾液の働き,口腔内細菌,抵抗力などが複雑に関係してくるからである.

この成因については様々な媒体で紹介されているので省かせて頂くとして,歯磨きはいつしますか?江戸時代は「朝起きた時」だったのをご存じだろうか.そもそも歴史を紐解くと,歯磨きの始まりは3~4世紀,中国敦煌の壁画に,指で歯を磨く揩歯(かいし)が描かれていたというから驚きである.日本には仏教の伝来と共に伝わって,当時は僧侶をはじめ公家,武士などが歯木(楊枝)で歯を磨いたり,舌の上を削る舌こきをしたりしていた.歯みがきが庶民に普及したのは,江戸時代の元禄の頃からである.ここに,神仏に詣でる時の口をゆすいで身を清める風習が合わさり,身を清めるみそぎの習慣として朝起きた時に歯磨きをしていたそうである.現代のように,食後に歯を磨く習慣は,実は明治になって西洋の歯科医学の知識が入ってきてからであるが,一般の人々にはなかなか普及しなかったという.夜間は唾液もほとんど出ないから,朝は磨かずともやはり夜寝る前の歯磨きを習慣にしてもらいたいものだ.

私は歯科ほど予防が効を奏する診療科はないと思っているのだが,冒頭で述べたように残念ながら診療室では毎日むし歯・歯周病との戦いである.その理由として,なるべくなら歯医者には行きたくない人が多いからではないか.

歯科医院の何が嫌いなのか聞いたら,その切削音が苦手だという意見が多い.この切削音はダイヤモンドバーが1分間に20万回転することにより発生する音で,その際発生する熱を冷却するために水が噴出する,そのどれも嫌だと.この音が出ないようにする切削器具を発明すると,特許だけで左うちわで暮らせるそうだ.このいやな音からくる緊張感を少しでも和らげようと,医院内では音楽を流している.午前中はクラシック,午後からはジャズかポピュラーであるが,私の好きなアーティストに反応してくれる患者さんがいると嬉しい.

また,歯科医院が遠のく二番目の理由は,子どもの頃,または成人してから歯医者さんで怖い思いをしたというのがその原因らしい.それで,私は歯医者さんが嫌いな甥(子どもの頃歯医者に馬乗りになられて歯を抜かれた経験をもつ)から聞いたアメリカの小話を思い出した.

部屋には10歳の男の子と母親がいる.

母親「隣のジョンの母さんからどなりこまれたよ.また,いじめたんだね.まったくおまえは何回言っても分からないんだから.そんなにいじめたけりゃ歯医者におなり!」

男の子「・・・」

おかげで私は,大人になった甥に今もサドと言われている.

むし歯・歯周病は糖尿病や高血圧等と同じく生活習慣病であるので,痛くなってから歯科医院を受診するのではなくぜひ予防の目的で歯科医院を受診して欲しいものである.そうは言ってもこの「生活習慣病」はなかなか減少しない.これを自己責任と押しつけるのではなく,「健康格差」と捉えその解決策を考える事が第一歩ではないだろうか.

 

宮崎日日新聞
2016年10月31日掲載

 

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口腔内細菌にびっくり https://hitoe-dc.com/57/ https://hitoe-dc.com/57/#respond Mon, 29 Jan 2018 02:39:15 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=57 牛レバーが生食禁止になって久しい。この原因はO157等の細菌で、私が大好きな鶏肉の生食も食中毒の危険ありと言われているが、これもサルモネラ菌等の細菌が原因であり、見えないからよく分からない。むし歯・歯周病の原因の一つとなる細菌についても同様に見えないからよくわからないと言う患者さんが大概である。

当院では、数年前より口腔内細菌を位相差顕微鏡で患者さんに見せて動機づけに生かしている。顕微鏡というと子どもの頃にタマネギの切片に驚嘆した記憶があるだろうが、専門家以外はそれ以来見たことがないという人が案外多い。

この顕微鏡を作った人はオランダのレーウェンフック(1632生)で、300年前に肉眼で見ることのできない細菌が存在する事を明らかにした。彼は商人であり政治家でもあったが、レンズを作る事を趣味としていた。彼の作った顕微鏡は200~300倍で、信じがたい程素晴らしいできであったという。

彼はデンタルプラーク(歯垢)を観察し、その内容を英国科学雑誌に報告し、すでにプラーク細菌を桿菌、球菌、ラセン菌に分類していた。その素晴らしい科学的所見と洞察は彼の死後長い間凍結され研究される事はなかった。

その後仏のパスツール(19C)が細菌は生物から生物に感染して発生する事を実証し、これに基づいて独のコッホ(19C)が感染症を克服する業績をあげた。そして、米のミラー(19C)がむし歯は細菌によって起こることを化学細菌説として示した。

では、どのくらいの種類と数の細菌が口の中にいるかご存じであろうか?口腔内には500種類を超える細菌種が住み着き、歯垢1㎎に10個の細菌がいる。それは便中の細菌数とほぼ同じと言われている。常在菌もいてすべてが悪さをする菌ではないが、残念ながら目にみえない菌(0.5μm~100μm)1)であるが故にこの菌の怖さを知らない人がほとんどである。

中でも歯周病は細菌が静かに長い時間をかけて侵襲するので気付いた時には手遅れという事が多い。これが歯周病を糖尿病と共にsilent disease(静かに潜行する病気)と呼ぶ由縁である。歯周病を放置しておくと歯周病菌により歯槽骨が吸収され、ある日歯が自分の手で抜ける位ぐらぐらになって、40代から総入れ歯になる人もいる。40代以降歯を喪失する主な原因はこの歯周病であり、やっかいなのは総入れ歯になって初めて、その不便さに気付く事である。宮崎弁で「しもた~」である。

さらに脅かすようで恐縮だが、歯周病菌は万病の元であることも一般的には知られていない。動脈硬化症、病巣感染、早産、糖尿病などの誘因ともなる。このような歯周病菌を「キラー軍団」と呼ぶのは、こういういわれからである。

これから本格的な冬の到来を迎えてインフルエンザの感染が毎日のように報道されるであろうが、これらの病原菌は細菌よりもっと感染力の強いウイルスであり、人類はこれらの菌との戦いにこれからも翻弄されるのであろう。

注釈
1)1μm=1000分の1mm

 

宮崎日日新聞
2016年12月5日掲載

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口腔ケアで肺炎を防ぐ https://hitoe-dc.com/60/ https://hitoe-dc.com/60/#respond Sun, 28 Jan 2018 02:43:58 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=60 人生の秋にさしかかり最近死亡記事の死因が気になるようになった。日本人の死因は1位が悪性新生物、2位が心疾患であるが、脳血管障害に代わって3位が肺炎となった事は耳新しい(2016年厚労省ホームページ)。中でも要介護高齢者の死因の1位は肺炎であり、その中でも誤嚥性肺炎の割合は年齢と共に高くなる。しかし、医療関係者以外でこの誤嚥性肺炎に口腔ケアが効果ある事を知っている人はまだ多くはないのではないか。静岡県の開業医の米山武義氏が書かれた「要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究」が2001年に出されてから、施設や病院で徐々に日常的に口腔ケアがされるようになってはきたが、まだまだ単なる歯磨きと思われている。実はやり方次第では口腔内細菌が減少して唾液中の細菌群が変化し肺炎の発症率も減少し、口の機能が向上し嚥下機能が改善して食べる事が可能になる事例がある。

この口腔ケアという言葉は要介護者に使われる事が多い、歯磨きよりもっと広い意味をもつ。歯磨きというと誰でも簡単にできると思われる傾向があるが、どっこい健康な大人でも”細菌を除去する”という見地からの正しい磨き方をしている人は少ない。いわんや幼児、障害のある人、要介護高齢者となると、ほとんど歯垢中の細菌は除去されていない場合が多い。では、どうすれば良いか?それは、誰かの手を借りることである。これは継続する事が必須要件であるので、家族、施設のスタッフ、看護師等からの”介助磨きの手”が必要でそれは専門的でなくても良いが、できたら歯科専門家の指導を受けての”仕上げの歯磨き”をする事である。そして、機能的な向上をめざす広い意味での口腔ケアが必要となってくる。

私はスタッフと共に2006年から5年間毎月、リハビリテーション病院の病棟の看護師さんに口腔ケア指導に行っていた事があるが、3年程経過した頃から入院患者さんの熱発が減少したとの報告を受けるようになった。これらの確証を得る為その後、「看護師への口腔ケア指導前後の要介護者の口腔内細菌の変化と使用した抗生剤量の年次変化」という論文を書いたが、対象となった患者さんの口腔内総細菌の減少がみられ、慢性期病棟で肺炎に処方される抗生剤の使用量が減少した。この場合は歯科専門職でない看護師等がする口腔ケアであるが成果が出る結果となった。診療室ではおめにかかれない寝たきりの患者さんも多く様々な事を学ばせてもらい、その時の経験は今でも宝物である。

誤嚥→誤嚥性肺炎というより高齢者は誰でも時には誤嚥するものであり、喀出力や免疫力や防衛体力等とのバランスが崩れた時に起こると考えた方がわかりやすい。そして、この肺炎は食物の誤嚥より不顕性誤嚥(汚染された唾液を就寝時に気づかない間に誤嚥する事)により引き起こされる率が高いのである。口腔ケア、低栄養の改善、リハビリテーションにより長臥をさせない事、これが誤嚥性肺炎を防ぐ最低限の方法ではないかと思う今日この頃である。

最後に・・・口は大事だよ!

※誤嚥(ごえん)(食物や唾液や胃液が誤って気管に入る事)

※誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)(誤嚥による肺炎)

※不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)

※喀出(かっしゅつ)

 

宮崎日日新聞
2017年1月30日掲載

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介護予防は健康な口から https://hitoe-dc.com/62/ https://hitoe-dc.com/62/#respond Sat, 27 Jan 2018 02:45:32 +0000 http://mfi.sakura.ne.jp/hitoe-dc/wp_2018/?p=62 昔、尊敬する先生が「一つ楽器が弾けて、一つ好きなスポーツがあれば人生はより豊かになる」と言われた。楽器はとうの昔放置したままになっているが、趣味で合唱団で歌を歌っている。あまりうまくはなくても皆で声を合わせればハーモニーが楽しい。でも私は外国語の歌詞の「巻き舌」は苦手である。それは元来不器用なのか、年をとったせいなのか理由はわからない。それで口の動きに関連して、人気ニュースキャスターが滑舌が悪くなった事を理由に引退した記事を思い出した。

この様に口の動きが鈍くなった事に関連して、国が最近唱えているキャッチフレーズが「フレイル」である。これは健康増進の為の施策であるメタボ、介護予防のロコモに続いて「虚弱」を意味するのであるが、一般にはまだあまり知られていない。この「フレイル」はお茶でむせるか、歩くスピードが遅くなったか、外出の頻度が減ったか等チェックして、要介護となる一歩手前で虚弱をみつけようというものである。余計なお世話さまと思う人がいるかもしれない。そしてこれは身体の衰えだけでなく、社会性や精神的な要素も入っているので今までの介護予防とはちょっと違う。

この社会性を測るもの差しに、1週間に2つ以上の趣味に興じるか、1日に1回以上は誰かと食事をするか等も加わる。そして、フレイルの第一段階は社会参加の欠如から始まると言う。さらに進むと第二段階の栄養面でのフレイルとして現れてくるが、中でも「口腔フレイル」はこれらの変化の兆しとして日常的に診療室でもおめにかかる。例えば10年来の患者さんが、最近滑舌が悪くなった、食べこぼしをする、噛めない食品が増えた等と訴えられるとちょっと注意深く観察してしまう。これらは口腔フレイルの3兆候であり、自己チェックもしやすい。要するに筋肉の衰え(サルコペニアと言う)が原因で、この兆候は先程述べた身体全体の衰えの前に現れるという。つまり、口の衰えが全体の衰えの黄信号となるのである。

以前、こんな事例を経験した。83才女性がご主人が亡くなった後うつ症状が進行し、しゃべらずご飯も食べなくなり胃ろうになったまま、私が嘱託医をしている施設に入居してきた。放置されていた義歯を調整し嚥下食から訓練を始めリハビリテーションを行った所、普通食を食べるようになり体重も増え、しゃべり、歌い、歩き現在は穏やかに暮らしておられる。

では、この口腔フレイル3兆候が認められたらどうすればいいのだろう?千葉県柏市で5年前から住民を対象にフレイルについての調査と取り組みが行われ様々な事がわかってきた。健康長寿の為には3つの柱があり、社会参加(友人と食事する、趣味を持つ)、栄養(タンパク質摂取そして栄養のバランスと口腔の管理)、身体活動(継続的な運動)が大事であり、特に社会参加が肝であるそうだ。

ちなみに私が所属する合唱団名はオペラの劇中の酒場にちなみ「酒場に集う人々」という意味あいをもつという。仲間と食べて語り合い、そして身体を動かす。これが元気の源かもしれない。

南風が吹いた、さあ老いも若きも外へ出よう、そして口を動かそう。

 

宮崎日日新聞
2017年3月13日掲載

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